欧州の工場と電力網を守る投資、90億ドル市場の実像

欧州の工場と電力網を守る投資、90億ドル市場の実像

ニュースの概要

欧州の産業制御システム向けサイバーセキュリティ市場が、2026年の約29億8000万ドルから2036年に約90億2000万ドルへ育つとの分析が出ました。年平均の伸びは10.5%です。工場、電力、交通、公共インフラの設備がネットワークにつながるほど、守る対象も広がります。一方で、何十年も使われてきた旧式の装置、現場ごとに異なる運用ルール、専門人材の不足が、導入の足かせになっています。分析は、AIによる異常の検知と、運用を外部に任せるマネージド型の保護サービスが、この市場を押し上げる主役になると見ています。

引用元: 欧州OT・ICSサイバーセキュリティ市場、2036年に90億ドル規模へ拡大の見通し(Yahoo Finance)

分析・見解

伸び率10.5%の裏にある、守る範囲の急拡大

10年で市場が3倍強になる計算です。この数字は、攻撃が増えたから膨らむだけではありません。守る範囲そのものが広がっています。

これまで工場の制御装置は、外の世界から切り離された「閉じた箱」でした。ところが今は、稼働データを集めて品質や保守に生かすため、制御装置と事務用ネットワークがつながっています。つながった分だけ、入り口も増えます。セキュリティ投資は、新しい脅威への対策というより、つなぐ決断に付いてくる必要経費と捉えるほうが実態に近いでしょう。

30年前の装置を、止めずに守るという難題

情報システムなら、古くなれば更新できます。しかし、発電所のポンプや鉄道の信号装置は、止めること自体が許されません。パッチ(=修正プログラム)を当てるために数分止めるだけで、数億円規模の損失が出る現場もあります。

そのため主流になるのは、装置を直すのではなく、周囲を見張る方法です。通信の流れを受動的に観察し、普段と違う動きだけを拾います。装置に手を加えないので、止める必要がありません。旧式設備が多い欧州で、この監視型の製品が先に売れる理由はここにあります。

AI検知と運用委託が同時に伸びる必然

人材不足は、この市場の最大の制約です。制御の知識とセキュリティの知識を両方持つ人は、ごくわずかです。そこで、AIが膨大な通信から異常の候補を絞り込み、人は判断に集中する分担が現実的になります。

さらに、自社で専門家を抱えられない中堅の工場は、見張りを丸ごと外部に任せるマネージド型に流れます。2021年にアメリカで起きた石油パイプラインの停止事件のように、事務側の被害が制御側の停止判断にまで波及した例は、経営層に「自前では守りきれない」という現実を突きつけました。AIと運用委託は別々の流行ではなく、人手不足という同じ穴を埋める二つの手段です。

規制が需要を生み、成長の下限を支える

欧州ではNIS2指令(=重要分野の事業者にセキュリティ対策と報告を義務づける新しい規則)の適用が進み、違反すれば高額の制裁金を課される可能性があります。需要は景気に左右される任意の支出ではなく、守らなければならない義務に支えられます。

私は、この規制の効き方こそが、10.5%という堅調な伸びを下支えする最大の要因だと見ています。ただし、書類上の対応だけを整えて実際の監視が伴わない企業も増えるはずです。形だけの導入と、現場で機能する導入の差が、今後の事故の明暗を分けるでしょう。

ビジネスへの影響

まず自社の制御設備がどこまでつながっているかを描く

対策の出発点は製品選びではありません。どの装置が、どのネットワークで、誰とつながっているかを一枚の図にすることです。意外に多いのが、保守業者が持ち込んだ回線や、過去に設置して忘れられた遠隔接続口です。

図ができれば、優先順位が見えます。止まると影響が大きい設備と、外とつながっている設備の重なる部分から手を付けてください。全体を一度に守ろうとすると予算も人も尽きます。

内製か委託かは、夜間の対応力で決める

判断の軸は、深夜に異常が出たとき、制御を分かる人が数十分以内に動けるかどうかです。動けないなら、24時間の見張りを委託する選択が合理的です。ただし丸投げは禁物で、停止してよい範囲と判断の権限は、自社で決めておく必要があります。

欧州の動きは、日本企業にも他人事ではありません。欧州の取引先から、NIS2に沿った対策の証明を求められる場面が、部品供給の契約で今後増えるでしょう。対策の有無が、受注の条件になる可能性があります。早めに現状を診断し、不足点を一覧にして、年度予算に載せておくことをお勧めします。

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