フィスコが公表したEGのリサーチメモでは、同社がSNS監視、カスタマーサポート、サイバーセキュリティを統合的に提供する事業モデルが詳述されている。従来は独立していたこれらの機能を一つのプラットフォームで提供する動きは、企業のデジタル防衛戦略における新たなパラダイムを示唆している。
参考: EG Research Memo(2):SNS監視、カスタマーサポート、サイバーセキュリティなどをワンストップで提供(フィスコ)(Yahoo!ファイナンス)
分析・見解
ソーシャルエンジニアリング起点の攻撃7割超と部門の分断
EGのような統合サービスモデルが注目される背景には、企業が直面するリスクの性質そのものが変化している事実がある。2023年以降、サイバー攻撃の70%以上がソーシャルエンジニアリング(=人の心理につけ込む手口)を起点とし、SNS上での情報漏洩や風評被害が、技術的な弱点を突く攻撃と並ぶ主要リスクとなった。にもかかわらず、多くの企業ではセキュリティ部門とカスタマーサポート部門が分断されたまま運用されており、SNS上での不審な問い合わせがフィッシング攻撃の前兆だったケースでも、情報共有の遅れから対応が後手に回る事例が頻発している。
部門間の相関分析で脅威検知時間を4割短縮
統合モデルの真価は、こうした組織の縦割りを解消し、顧客接点で得られる異常のシグナルをリアルタイムでセキュリティ分析に活用できる点にある。例えば、カスタマーサポートへの問い合わせ内容の変化パターンから標的型攻撃の予兆を検知したり、SNS監視で発見した偽アカウントの活動を自社システムへの侵入の試みと関連付けたりする相関分析が可能になる。ガートナーの2025年レポートでも、セキュリティ運用センターとカスタマーエクスペリエンス部門の連携が「脅威検知にかかる時間を平均40%短縮する」と指摘されている。
異なる文化を持つ2部門を統合する難しさ
ただし実装には課題もある。最大の障壁は、セキュリティチームとカスタマーサポートチームで求められるスキルと文化が異なる点だ。前者は技術的な深さと慎重さを、後者は迅速な対応と共感力を重視する。両者を統合するプラットフォームには、各部門の専門性を損なわずに情報を橋渡しする設計思想と、過度な情報共有によるプライバシーリスクへの配慮が不可欠となる。
ビジネスへの影響
情報の死角を生む縦割りダッシュボードのリスク
意思決定者が検討すべきは、自社のリスク管理体制に「情報の死角」がないかどうかである。セキュリティ部門が監視するログと、カスタマーサポートが受ける問い合わせ、SNS上での自社への言及を別々のダッシュボードで見ている企業は、攻撃者がこれらの境界を悪用するリスクにさらされている。統合プラットフォームの導入を検討する際は、単なるツールの統合ではなく、インシデント対応のワークフロー全体を作り直す覚悟が必要だ。
双方向の教育投資と4億円超の被害回避効果
具体的には、カスタマーサポート担当者が基本的なセキュリティ上の異常を見分けられる教育プログラムの整備、逆にセキュリティ担当者が顧客への影響を評価できる仕組みの構築が先決となる。初期投資は大きいが、データ侵害の平均コストが4億円を超える現在、統合による早期発見がもたらす損害の回避効果は十分に正当化できる水準にある。